「エギ売ります!」この直球のメッセージに何人たりとも足を止めずにはいられない。石垣島に来たからには避けては通ることのできないホットスポットにやってきた。島人ぬ宝ならぬ、島人ぬエギ屋さんである。
「エギ売ります!」
かつては「イカ曳き」というアオリイカ漁法に用いられてきた日本固有のルアーであるエギ。これは薩摩より発祥したと言われ今に伝わるが、八重山諸島にも独自に紡がれてきたエギの文化がある。九州地方から伝播したのか、はたまた自然発生的に同じようなものが偶然生まれたのか。
ともあれ、ここ石垣に固有のエギがいまだ残っていることはかねてから情報としては知っていた。齢90を超えるオジイが手作業で作り続けているらしい。ついに来た、「エギ売ります!」の看板に高鳴る胸の鼓動を抑え、沖縄らしい、戸の低い昔ながらの家屋に入っていく。
餌木が壁にかかっている。
不在のオジイ
しかし、オジイがいない。というか、誰もいない。すみませんと呼びかけてみると、オバアが奥から出てきてくれた。話を聞くに、オジイはつい数ヶ月前、入院してしまったそうだ。もうエギを作ることはないと。我々の探訪は、得てして高齢の方との会話を目的とすることが多く、こうしたケースがままある。実際にお会いして、色々な話を聞かせてもらいたかったのだが… 残念な気持ちをよそに、目の前の壁には一面、石垣エギがぶら下がっていた。
優しいオバアにお話を聞かせていただいた。
無骨な石垣餌木
石垣のエギは薩摩エギに比べて布も巻いておらず、削りっぱなしで無骨さが残る。形も様々で、2つとして同じ形はない。一方どれも共通して、餌木の腹に暗号のような文言が記載されている。これは素材となる木の種類や採取した場所を本人のみわかる形で残しているのだという。値付けの仕方も独特で、実績のあるもの、つまりオジイが使ってきた中古品は値段が高く、新品は値段が安い。今後のエギの文化探訪の重要な手がかりとしていくつか譲っていただき。お店を後にした。
薩摩エギは民芸的な発展の中で修練されていった形跡が見られるが、ここのエギは極めて原始的な姿に見えた。
石垣の餌木は無骨。