旅の段取り

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旅の段取り

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掲載 2026.05.26 更新 2026.05.28

TABI・第2話/全3話

「TABI」の着想の元となったアバクロンビー・アンド・フィッチのパスポート・ロッド。その来歴の空白を埋めにニューヨークへ行く段取りを書いた。マディソン街の本店跡、キャッツキルの博物館、ビーヴァーキルの川岸。

TABI シリーズ・第二話/全3話 — 開示が段階的に深まる、3本続きの記録。

 「TABI」を作ってから、この竿の出自が気になり始めた。もともとの着想は、アバクロンビー・アンド・フィッチがかつて売っていたとても小さく仕舞える竿にある。パスポートと同じ大きさの箱に収まるグラスファイバーの竿で、手元に一本ある。しかしこの竿がどういう経緯で企画され、どういう人々の手を経てきたのか、私はあまりよく知らない。カタログと竿の実物だけが手がかりで、来歴の大半が空白のままである。「TABI」がその出自を辿れと言っている気がする。ニューヨークの地図を広げた。

 カタログの奥付に支店名が三つ載っている。ニューヨーク、ショートヒルズ、シカゴ。本店はニューヨークのマディソン街と四十五丁目の交差点にあったらしい。十二階建てのビルに1917年から六十年間この店があった、と調べるうちに判った。地階に射撃場、各階に狩猟の剥製、屋上にはフライ・キャスティングの試し打ち用プールまで備えていたという。釣り竿だけではなく、冒険と旅の全てを商っていた店だったようだ。1977年に閉じて、今は360マディソン・アヴェニューというオフィスビルに建て替わっている。この竿がかつて棚に並んでいた場所を見てみたい。

 調べていくうちに、シャルル・リッツという名前が何度か出てきた。パリのオテル・リッツの主人で、フライ・キャスティングの名手だったらしい。この人物がこの竿と何か関わりがあるようなのだが、まだ全容が見えない。ただ一つ判ったのは、リッツが若い頃ニューヨークにいたということで、1916年から17年ごろ、二十代半ばでマディソン街四十六丁目のリッツ・カールトンの夜勤支配人をしていたらしい。マンハッタンの質屋で壊れた竹竿を買っては修理して売っていたという話もある。ロウアー・マンハッタンにアングラーズ・クラブという1906年創設の釣り倶楽部があって、リッツはそこの会員だったとも書いてある。この倶楽部は今もブロード街百一番地にあるらしい。旅程に入れておく。

 マンハッタンから北西へ車で二時間ほど走ると、キャッツキル山地に入る。リヴィングストン・マナーという町に、キャッツキル・フライフィッシング・センター・アンド・ミュージアムという博物館があることが判った。竹竿の工房やロッドメーカーの展示室を構えていて、この竿を作ったとされるフィリプソン社のロッドも収蔵品にあるらしい。手元のパスポート・ロッドを持ち込んで、収蔵品と見比べられたら、何か判るかもしれない。

 博物館から車で十数分走ると、隣町のロスコーに出る。ビーヴァーキル川とウィロウモック・クリークが合流するあたりで、アメリカのドライフライ・フィッシング発祥の地とされている。リッツもニューヨーク時代にビーヴァーキルで竿を振っていたという記録があるらしい。この川に行けば、この竿の背景にある文化のことが少し見えてくるかもしれない。

 旅の道筋がうっすら見えてくる。マンハッタンに入り、まずマディソン街と四十五丁目の交差点に立つ。アングラーズ・クラブの前を通る。翌日は車を借りてキャッツキルへ向かう。ビーヴァーキルの川岸に立ったとき、「TABI」を出してみる気になるかもしれない。出さなくてもよい。竿が鞄の中にあるだけで、川の見え方が少し変わる。

 鞄にはパスポート・ロッドと「TABI」の二本を入れていく。グラスファイバーと竹。来歴のよく判らない竿と、その竿に導かれて生まれた竿。この二本を連れて、来歴の空白を埋めに行く。段取りはまだ紙の上にしかないが、地図を眺めているだけで気持ちが少し先に行っている。


この記録に関連する蒐集

TABI ― 旅|パスポートサイズの和竿

なんなら、釣りしなくてもいい パスポートと同じ大きさで、振れる和竿があります。仕舞い寸法はおよそ15センチ。トラベルオーガナイザーのペン差しに、ボールペンと並んで滑り込みます。継ぎ目は10。継いで伸ばすと、約152センチ(5フィート)。 「ここまで小さくできますか」――職人さんに、かなり無理をしてもらいました。 性能は、抜群です 旅持ち用に短く畳む、というだけの竿ではありません。穂先から手元のグリップまで、全長がバンブーで一本の素材として通っています。グリップは、その竹を「包んでいる」だけ。手元のアクションが、継ぎ目のグラつきで濁ることなく、まっすぐ穂先まで伝わります。 普通の渓流で、ルアーが投げられます。尺サイズの取り込みも余裕です。 10本継 × 印籠継ぎ 10本もの継ぎ数がありながら、キャスト中の緩みは極限まで抑えられています。これは印籠継ぎという継ぎ方式によるもの。継数が増えるほど緩みのリスクは上がるはずが、印籠継ぎはその逆をいきます。継ぎ目で全体強度を高めながら、緩みも同時に減らす。 銘木と、本漆の重ね塗り グリップは、銘木に本漆を下塗りなしで何度も塗り重ねたもの。下塗りをしないことで、漆が木目に染み込みます。何度も塗り重ねるたびに、木の表情そのものが深い色を持つようになります。 注文時には、銘木をお選びいただけます。一本ずつ、表情の異なる竿が生まれます。 ルアーで魚を取り込む喜び以上に、グリップを自分の手で触って、銘木の漆の深さを目で楽しんでほしい。 ぜひ、自然光と、木漏れ日の影と光が当たっている中で、このグリップを見てください。 洋白の金属部品 リールシートまわりの金属部品は、このロッドのために1から図面を引いて削り出しました。素材は洋白(ようはく)。海水にこそ弱いですが、白銀のような奥深い色合いと、手に馴染む質感を最優先で選んでいます。 この竿は、川を選びます 正直にお伝えしておきます。この竿は、川を選びます。これを持って「釣りしに行くぞ」という積極的なメイン竿ではありません。 同じような渓流を目の前にしたとき、こういう魚がルアーに飛びついてくるところまでイメージできる方と、この一本を共有したいと思っています。 なんなら、釣りしなくてもいい 専用の革袋に入れて、スーツケースに忍ばせる。旅先のホテルで取り出して、灯りの下で銘木を眺める。窓の外に渓流が見えれば、組み立てて手に持ってみる。振らなくてもいい。継がなくてもいい。そういう持ち方が、この竿には許されています。 仕様 仕舞寸法 約15cm 全長 約152cm(5ft) 継数 10本継 継ぎ方式 印籠継ぎ 竹素材(竿身) 矢竹 穂持ち 高野竹 穂先 真竹4枚合わせ削り グリップ 銘木(注文時選択可)+ 本漆重ね塗り / コルク / グリップ内竹芯通し 金属部品 洋白(本ロッド専用設計) リール仕様 スピニング 推奨フィールド 小渓流。尺級まで対応 製造 完全受注。職人による一点製作 製造とお届けについて こちらは完全受注の商品です。ご注文後、職人と銘木をご相談のうえ製作に入ります。 お届けまでの目安:受注確定後 3〜6ヶ月程度。職人のスケジュールおよび銘木の手配状況により前後します。 3年間 無料・無制限のメンテナンスをお付けしています。 ご質問・銘木のご相談はお問い合わせフォームよりご連絡ください。

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