TABI ― なんなら、釣りしなくてもいい

発表

TABI ― なんなら、釣りしなくてもいい

WAZAO-IPPON

掲載 2026.05.28

「TABI(旅)」。パスポートと同じ大きさで、振れる和竿。10本継の印籠継、矢竹4枚合わせ穂先、銘木グリップ。鞄の底に忍ばせる完全受注のルアーロッドを、Inheritor シリーズに加える。「なんなら釣れなくてもいい」をさらに更新する、一本。

なんなら、釣りしなくてもいい

なんなら釣れなくてもいい――和竿一本のブランド標語に、もう一段書き足したくなる一本ができました。名前は「TABI(旅)」

なんなら、釣りしなくてもいい。

TABIの全パーツ。洋白のリールシートを左に、矢竹10ピースを正しい組順で——手元側から、ガイドなしの太い2本、その先に大きいガイドのセクションから順に細くなり、穂先のラインタイへ。

パスポートと同じ大きさで、振れる竿

きっかけは、ある旅先で、水辺のそばに泊まったときのこと。朝、川面に魚がはねるのが窓から見えました。竿さえあれば出られるのに、と思った瞬間です。翌日には次の町に移っていて、あの朝は二度と来ません。鞄に入る竿があれば、ああいう朝を逃さずに済む。
そこから逆算して行き着いたのが、パスポートの大きさでした。

職人へのオーダーは、こう伝えました。

「パスポートサイズにしてください」

仕舞い寸法はおよそ15センチ。手のひらに収まり、トラベルオーガナイザーのペン差しに、ボールペンと並んで滑り込みます。継ぎ目は10。継いで伸ばすと、約1.6メートル。

「ここまで小さくできますか」という相談を、何度も職人と重ねました。最後は、職人さんに「かなり無理してもらった」一本です。

10ピースに分かれた矢竹のロッドと洋白のリールシート。手のひらで大きさを示している。

性能は、抜群です

旅持ち用に短く畳む、というだけの竿ではありません。

  • 矢竹(やだけ)の本体
  • 矢竹を4枚合わせた穂先
  • グリップの最奥まで通された竹芯

穂先から手元のグリップまで、全長がバンブーで一本の素材として通っています。グリップは、その竹を包んでいるだけ。だから、手元で起こしたアクションが、つなぎ目のグラつきで濁ることなく、まっすぐ穂先まで伝わります。

普通の渓流で、ルアーが投げられます。尺サイズの取り込みも余裕です。日本の竹竿が長い時間をかけて磨いてきた、継ぎ竿の技術がそのまま生きています。

10本継 × 印籠継ぎ

10本もの継ぎ数がありながら、キャスト中に緩むことは極限まで抑えられています。これは印籠継ぎという継ぎ方式によるもの。継数が増えるほど通常は緩みのリスクが上がりますが、印籠継ぎはその逆をいきます。継ぎ目で全体強度を高めながら、緩みも同時に減らす。職人と打ち合わせを重ね、この仕様に落とし込みました。

斜めに並んだ10本のロッドセクション。それぞれにガイドが取り付けられ、印籠継ぎの継ぎ目が見える。

銘木と、本漆の重ね塗り

グリップは、銘木に本漆を下塗りなしで何度も塗り重ねたものです。下塗りをしないことで、漆が木目に染み込んでいきます。何度も塗り重ねるたびに、木の表情そのものが深い色を持つようになる。

そして、注文時には銘木を選べる仕様にしています。一本ずつ、表情の違う竿が生まれます。

ルアーで魚を取り込む喜び以上に、グリップを自分の手で触って、銘木の漆の深さを目で楽しんでほしい。
ぜひ、自然光と、木漏れ日の影と光が当たっている中で、このグリップを見てください。

蛍光灯の下では、この色は本当の意味では立ち上がりません。渓流に持ち出して、緑の光と木漏れ日に当てたとき、はじめてその深さがわかります。

銘木に本漆を重ねたリールシートと洋白の金属パーツのマクロ。背後にロッドセクションが柔らかくぼけている。

洋白の金属部品

リールシートまわりの金属部品は、今回このロッドのために、1から図面を引いて削り出しました

素材は洋白(ようはく)。海水にこそ弱いですが、白銀のような奥深い色合いと、手に馴染む質感を最優先で選んだ素材です。グリップの銘木とのコントラスト、そして実際に握ったときの温度感まで、設計の対象に入っています。

この竿は、川を選びます

正直にお伝えしておきます。

この竿は、川を選びます。
なので、この竿が使える川を、渓流を、探す。出会えなかったら、旅先で釣りはできないんですよ。そういうシビアさは正直あります。これを持って「釣りしに行くぞ」っていう竿ではないです。

設計のとき、頭にあったのは、ヨーロッパや東欧の小さな渓流。ボヘミアの森を流れる細い川に下りていって、小さなトラウトと出会う――そういう旅の絵が、職人との打ち合わせの背景にありました。

実際に魚と出会えるかどうかは、誰にも約束できません。同じような渓流を目の前にしたとき、こういう魚がルアーに飛びついてくるところまでイメージできる人と、この一本を共有したいと思っています。

なんなら、釣りしなくてもいい

「なんなら釣れなくてもいい」というブランド標語を、私たちはずっと掲げてきました。

釣りは手段で、和竿は旗。

江戸の釣り師には「小粋」という構えがあったといいます。さも釣り場に向かう風体ではなく、ふらりと家を出る。竿は小継ぎにして懐や袂に収め、釣りの支度を見せないまま歩く。道具を見せびらかすのではなく、道具を消す方に技と気概を寄せる。江戸和竿の小継ぎ技術は、こういう構えと一対になって磨かれてきました。

「TABI」は、その構えを旅の鞄の底まで押し込んだ竿です。

専用の革袋に入れて、スーツケースに忍ばせる。旅先のホテルで取り出して、灯りの下で銘木を眺める。窓の外に渓流が見えれば、組み立てて手に持ってみる。振らなくてもいい。継がなくてもいい。
そういう持ち方が、この竿には許されています。

仕様

項目 内容
仕舞寸法 約15cm(パスポートサイズ)
全長 約152cm(5ft)
継数 10本継
継ぎ方式 印籠継ぎ
竹素材 矢竹
穂先 矢竹4枚合わせ
グリップ 銘木 + 本漆重ね塗り(注文時に銘木選択可)/コルク/グリップ内に竹芯通し
金属部品 洋白(本ロッド専用設計・新規製造)
リール仕様 スピニング(フライリール装着での運用も想定可)
推奨フィールド 小渓流。尺級まで対応
製造 完全受注。職人による一点製作。仕様は一本ずつ異なります
価格 800,000円(税込)

職人技の見どころ

この一本に込められた職人技を、いくつか挙げておきます。お手にされたとき、ぜひ確かめてみてください。

  1. 10本の継ぎ目すべてに、印籠継ぎの精度が通っていること。
  2. 15センチに収めるためのグリップ寸法の限界設計。リールシート分しか長さがありません。
  3. 銘木とコルクの中心に、ぴたりと竹芯を貫通させる中心穴の精度。0.1ミリのズレを人間は感じ取れます。
  4. 矢竹4枚合わせ穂先。この細さで4枚を合わせる手元仕事。
  5. 洋白パーツを図面から起こして削り出したこと。

これらはすべて、量産では不可能な、一発勝負の仕事です。職人の腕と、その日の竹の機嫌が揃わなければ、この一本は生まれません。

最後に

この時代に、この仕様の、このロッドが、今この場にあるっていうのは、奇跡に近いと思う。

撮影の現場で、ぽろっと出た言葉です。

ご注文をいただけるたびに、職人と一緒に、もう一度この奇跡を起こしにいきます。

「TABI」をめぐる、もう少し私的な記録

企画者の視点から、「TABI」の出自と、これから出かける場所について書いた一連の記録があります。第一話から順に読むと、開示が段階的に深まる構成です。

  1. ― 第一話。江戸の「小粋」と、鞄の底の竿。
  2. 旅の段取り ― 第二話。ニューヨークで来歴の空白を埋める段取り。
  3. 旅——パスポート・ロッドの出自 ― 第三話。着想元となった一本の竿と、六十年の時差。

この記録に関連する蒐集

TABI ― 旅|パスポートサイズの和竿

なんなら、釣りしなくてもいい パスポートと同じ大きさで、振れる和竿があります。仕舞い寸法はおよそ15センチ。トラベルオーガナイザーのペン差しに、ボールペンと並んで滑り込みます。継ぎ目は10。継いで伸ばすと、約152センチ(5フィート)。 「ここまで小さくできますか」――職人さんに、かなり無理をしてもらいました。 性能は、抜群です 旅持ち用に短く畳む、というだけの竿ではありません。穂先から手元のグリップまで、全長がバンブーで一本の素材として通っています。グリップは、その竹を「包んでいる」だけ。手元のアクションが、継ぎ目のグラつきで濁ることなく、まっすぐ穂先まで伝わります。 普通の渓流で、ルアーが投げられます。尺サイズの取り込みも余裕です。 10本継 × 印籠継ぎ 10本もの継ぎ数がありながら、キャスト中の緩みは極限まで抑えられています。これは印籠継ぎという継ぎ方式によるもの。継数が増えるほど緩みのリスクは上がるはずが、印籠継ぎはその逆をいきます。継ぎ目で全体強度を高めながら、緩みも同時に減らす。 銘木と、本漆の重ね塗り グリップは、銘木に本漆を下塗りなしで何度も塗り重ねたもの。下塗りをしないことで、漆が木目に染み込みます。何度も塗り重ねるたびに、木の表情そのものが深い色を持つようになります。 注文時には、銘木をお選びいただけます。一本ずつ、表情の異なる竿が生まれます。 ルアーで魚を取り込む喜び以上に、グリップを自分の手で触って、銘木の漆の深さを目で楽しんでほしい。 ぜひ、自然光と、木漏れ日の影と光が当たっている中で、このグリップを見てください。 洋白の金属部品 リールシートまわりの金属部品は、このロッドのために1から図面を引いて削り出しました。素材は洋白(ようはく)。海水にこそ弱いですが、白銀のような奥深い色合いと、手に馴染む質感を最優先で選んでいます。 この竿は、川を選びます 正直にお伝えしておきます。この竿は、川を選びます。これを持って「釣りしに行くぞ」という積極的なメイン竿ではありません。 同じような渓流を目の前にしたとき、こういう魚がルアーに飛びついてくるところまでイメージできる方と、この一本を共有したいと思っています。 なんなら、釣りしなくてもいい 専用の革袋に入れて、スーツケースに忍ばせる。旅先のホテルで取り出して、灯りの下で銘木を眺める。窓の外に渓流が見えれば、組み立てて手に持ってみる。振らなくてもいい。継がなくてもいい。そういう持ち方が、この竿には許されています。 仕様 仕舞寸法 約15cm 全長 約152cm(5ft) 継数 10本継 継ぎ方式 印籠継ぎ 竹素材(竿身) 矢竹 穂持ち 高野竹 穂先 真竹4枚合わせ削り グリップ 銘木(注文時選択可)+ 本漆重ね塗り / コルク / グリップ内竹芯通し 金属部品 洋白(本ロッド専用設計) リール仕様 スピニング 推奨フィールド 小渓流。尺級まで対応 製造 完全受注。職人による一点製作 製造とお届けについて こちらは完全受注の商品です。ご注文後、職人と銘木をご相談のうえ製作に入ります。 お届けまでの目安:受注確定後 3〜6ヶ月程度。職人のスケジュールおよび銘木の手配状況により前後します。 3年間 無料・無制限のメンテナンスをお付けしています。 ご質問・銘木のご相談はお問い合わせフォームよりご連絡ください。

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